ここ数年で大人気となっているジビエ。串焼きやお鍋など、日ごろ中々食べることのできないジビエを食べる時間って、とっても贅沢なひとときですよね。
しかし、しっかり安全な方法で調理されたものを食べていますか?
うっかり食べ方を間違えてしまうと感染症による様々な症状を引き起こし、最悪の場合死に至ってしまうことだってあるのです。今日はジビエを安全に楽しんでいただくために、ジビエに潜んでいる危険や、正しい食べ方についてご紹介します。
生肉を食べるリスクとして、感染症や寄生虫に注意。
生肉には細菌やウイルスが多数生息しており、基本的には加熱調理をするのが一般的です。特別な衛生管理によって基準を満たしたものに関しては、お刺身やレアステーキなど生食で提供されることもあります。
では、なぜジビエは生食が禁止されているのでしょうか。
実はイノシシやシカといった野生鳥獣は、牛や豚などの家畜と異なり、エサや飼育方法などの管理がなされていないため、E型肝炎ウイルスや寄生虫をはじめとする細菌を保有している可能性が高いのです。知識も無く、むやみに誤った食べ方をしてしまうと、食品衛生上かなりリスクが高いと言えるでしょう。
それでは、ジビエにはどんな感染症が潜んでいるのでしょうか?
食中毒を全て上げるととても多くなってしまうので、報告が多いものをピックアップしてみました。
E型肝炎ウイルス
E型肝炎ウイルスは経口摂取によりE型肝炎を発症します。日本では2003年(平成15年8月)に、兵庫県における野生鹿肉の生食を原因とするE型肝炎食中毒の報告が最初で、特定食品との関連が初めて確認されました。また、市販されていた豚レバーの一部からE型肝炎ウイルスの遺伝子が検出されたこともあり、加熱不十分な豚レバーから人への感染の可能性も指摘されています。
症状
E型肝炎を発症すると黄疸、倦怠感、食欲不振が出現することもありますが、しばらくは無症状であることが多いです。平均6週間の潜伏期後に発熱、悪心・腹痛等の消化器症状、肝臓の肥大、肝機能の悪化などがみられ、大抵の場合は自然治癒しますが、まれに悪化する場合もあります。
予防策
お肉の中心部までしっかりと火が通るように加熱しましょう。これらの加熱でほとんどの危険な微生物は死滅するといわれています。
寄生虫(トリヒナ)
体長2〜4㎜の小さな線虫であり、寄生している獣肉の生食、あるいは加熱不十分で摂取した場合に感染します。経口摂取されたトリヒナは腸管内で成虫になり、多数の幼虫を産出、幼虫は腸壁を通り抜けて血流により全身の筋肉へ移動して寄生します。
症状
吐き気、下痢、腹痛などを引き起こした後、4〜6週間に渡ってトリヒナが産んだ幼虫が全身に分散し、全身の筋肉へと移動して寄生します。その際に39〜40度の発熱、筋肉痛、悪寒、浮腫、発疹などを引き起こします。心筋や呼吸筋が侵されると死に至る場合もあります。
予防策
お肉の中心部までしっかりと火が通るように加熱しましょう(75度1分)。まな板、包丁、お箸などは専用のものを使用しましょう。
肝蛭(かんてつ)
肝蛭とは木の葉の形をした寄生虫であり、牛、羊、山羊などが口にすると肝臓の胆管に寄生します。それらの糞と共に排泄された肝蛭の卵が、河川や水田などで「ヒメモノアラガイ」という淡水に生息する貝に寄生し、そこから水辺の植物に付着します。そして、それらを口にした哺乳類が感染してしまうことで食中毒を発症してしまうのです。
症状
発熱、倦怠感、貧血、食欲不振など症状は様々ですが、多くは自然治癒すると言われています。人に寄生してしまった場合には胆管炎、発熱、下痢などが報告されています。
予防策
肝蛭の卵が寄生するヒメモノアラガイは比較的きれいな淡水で生息するのが特徴です。水辺が綺麗だからといって、洗わずに生で食べてしまうのはとても危険なので、食材はしっかりと洗い、加熱して食べるようにしましょう。
サルモネラ
サルモネラ菌は家畜や野生鳥獣など幅広い動物に生息している細菌です。40度前後の温度で活発に増殖し、7度以下では発育出来なくなるといわれていますが、死滅するわけではありませんので注意が必要です。
症状
サルモネラ菌に感染すると8〜48時間の潜伏期を経て悪心、嘔吐などの症状が現れ、数時間後に腹痛や下痢などの消化器症状が出現します。サルモネラ菌の種類によっては3〜7日間症状が継続する場合があります。症状は比較的軽く、自然治癒することが多いのですが、下痢や嘔吐による脱水症状を引き起こす場合があるため、特にお子さんやシニアには注意が必要です。
予防策
サルモネラ菌は加熱に弱いことから、まずは「よく加熱する」ということが最も重要です。
カンピロバクター
カンピロバクターは鶏肉など家畜の体内に生息しています。
潜伏期間も2〜7日間(平均3日)と長く、500〜1000個の少量の菌でも発症することが多いのですが、非常に熱に弱くて通常の加熱調理で死滅するのが特徴です。酸素が少ない所で活発に増殖するので、空気に触れると死滅しますが、肉の中心部や関節付近は酸素が薄いため、そこでわずかに生き残っているカンピロバクターに感染することも珍しくありません。
40度前後で最も活発に増殖し、他の細菌と異なり常温よりも低温の方が生息しやすいのも特徴です。冷蔵庫で保管しておくと安心な気がしてしまいますが、カンピロバクターが生息したお肉を放置しておくと、増殖を助長することになってしまうので注意しましょう。
症状
カンピロバクターに感染すると下痢、腹痛、悪心、嘔吐などの消化器症状に加えて発熱、頭痛、悪寒、倦怠感なども出現することがあります。多くは自然治癒し、症状は改善していきますが、稀に感染した数週間後に手足や顔面神経の麻痺、呼吸困難などを引き起こすギラン・バレー症候群を発症することもあります。
予防
カンピロバクターも他の菌と同じく熱に弱いため、「よく加熱する」ということが最も重要です。
腸管出血性大腸菌
大腸菌は人間や動物の腸内にも存在しており、ほとんどのものは無害であったり、便のコントロールを良くする働きをしたりすることが多いです。しかし、中には下痢や嘔吐などの消化器症状を起こすものもあり、病原性大腸菌と呼ばれています。その中でも強い毒素を産生し、出血を伴う腸炎や溶血性尿毒症症候群(HUS)を引き起こすものを腸管出血性大腸菌と呼びます。
腸管出血性大腸菌には菌の特徴によって種類がいくつかありますが、中でも代表的なのは「腸管出血性大腸菌O157」です。その他にもO26、O111、O128、O145など、海外のものも含めると約50種類存在します。腸管出血性大腸菌は家畜(特に牛に多い)に存在していても症状が無いことが多く、菌を保有しているかどうかの判別が付きにくいことが特徴です。
症状
腸管出血性大腸菌は4〜8日間という長い潜伏期間があり、発症菌量も10〜100個と極めて少ないことが特徴です。上記のことから、原因食品の特定や、菌を検出できないことも珍しくはありません。潜伏期を経た後は激しい腹痛、血便、溶血性尿毒症症候群(HUS)、脳症を発症します。感染者が使用したトイレ、その先の下水や井戸水にも感染が広がり、二次汚染を引き起こす非常に毒素の強い大腸菌なのです。感染者は最悪の場合死に至ることもあり、日本でも過去に報告があります。
予防策
腸管出血性大腸菌は75度以上1分の加熱で死滅するのでしっかり加熱するようにしましょう。加熱温度以外にも、手指、調理器具、調理施設、食肉そのものの鮮度、同時に食べる生もの(添えの野菜やサラダ)からも感染リスクは十分に考えられるので、あらゆる箇所の衛生管理を徹底しましょう。
その他
エルシニア症
一般的には消化器症状を示しますが、発疹、リンパ節腫大、咽頭炎、腎不全、肝不全、敗血症などを引き起こすこともあります。
オウム病
突然の発熱、頭痛、咳、筋肉痛、関節痛などから気管支炎や肺炎を引き起こし、治療が遅れると悪化します。
ボツリヌス症
神経性麻痺(視力低下、かすみ、複視、対光反射の遅延、口渇、発語障害、嚥下障害、腹部膨満、便秘、尿閉、脱力感など)を発症し、悪化すると呼吸困難となり死に至る恐れもあります。
安全な食べ方(加熱方法、調理方法など)
感染症や寄生虫の怖さが伝わったと思います。こういった状況に陥らないためにも、安全な食べ方を学びましょう。
調理器具の衛生管理
ジビエを調理する際は、使用する包丁やまな板などの調理器具や容器の衛生管理も必須です。用途ごとに交換し、83度以上の熱湯、または200ppm以上の次亜塩素酸ナトリウム等による消毒を行います。
ジビエ肉の衛生管理
ジビエ肉は10度以下で保存するようにしましょう。ただし、切ったお肉を冷凍して保存する場合はマイナス15度以下で保存するようにします。他の食材とくっつかないようにラップや保存袋などを使って保存しましょう。その際できるだけ空気に触れないようにしておくことも、鮮度維持のポイントになります。
加熱温度
食肉による食中毒防止のための加熱条件として、中心部を75度で1分は加熱するようにしましょう。とはいえ、ジビエの調理法はしっかり火入れをするものから低温調理まで様々ありますよね。「中心温度75度で1分以上」と同等の加熱条件を下記に示します。
温度 | 時間 |
70度 | 3 |
69度 | 4 |
68度 | 5 |
67度 | 18 |
66度 | 11 |
65度 | 15 |
調理をする際は中心温度計を用いて、確実に中心温度が一定の時間以上を満たすよう調理しましょう。
ジビエ肉を美味しく食べるための調理のコツ
普段はあまり扱うことのないジビエですので「下処理や調理法がよくわからない」、「なんだか難しそう」「臭いってよく聞くし…」という声を良く耳にします。確かに普段食べなれている牛・豚・鶏などの家畜の肉よりはクセが強いのは確かです。しかし、ちょっとした一工夫でおうちでも手軽にジビエを楽しむことが出来ます。
筋の下処理
ジビエ肉には腱や筋膜が残っていることが多いので、丁寧に取るようにしましょう。残したまま調理してしまうと、固くて歯触りが良くありません。お肉を傷つけないように、丁寧に剥がすようにしていきます。
お酒に漬ける
お酒に漬けることで、臭み抜き効果と併せて肉の保水量が多くなるので柔らかく仕上げることができます。
牛乳に漬ける
この方法は何処かで聞いたことがある方もいるのではないでしょうか?
レバーの臭み抜き法として有名ですよね。ジビエも同じで、そもそも肉の臭みというのは血生臭さであることが多いです。牛乳の成分にはそういった血生臭さを吸着する働きがあり、半日〜1日ほど漬け込めばかなり臭みが軽減されます。ヨーグルトでも代用できますよ。
おろし玉ねぎに漬ける
玉ねぎにはプロテアーゼというたんぱく質分解酵素が含まれています。この酵素にある程度漬け込んでおくことで臭み消しはもちろん、お肉もとっても柔らかくなります。あらかじめフォークなどで数か所穴をあけておくとより効果的です。
キウイやパイナップルにも同等の効果がありますが、玉ねぎが最も扱いやすいかもしれません。たまにお料理にパイナップルが入っているのを見かけますが、こういった理由でお肉を柔らかくするために入っているそうですよ。
お肉は室温に戻しておく
一般的にお肉は調理前に冷蔵庫から取り出してそのまま使用する方も多いかと思いますが、ジビエ肉の場合は冷えたまま加熱調理をしてしまうと温度差がありすぎることから表面は焼きすぎてしまい、中には全然火が入っていない状況になってしまいます。
結果的にお肉の中心部まで火をしっかり通そうとすると、表面は焼きすぎとなり固くなってしまうのです。ジビエ肉を加熱する前は冷蔵庫からあらかじめ出しておき、室温に戻してから調理するようにしましょう。
焼きすぎない!弱火でじっくり。
赤身で筋肉の繊維が多いシカ肉は、一気に強火で加熱してしまうととっても固くなってしまいます。弱火でじっくりと加熱することで、赤身が多いシカ肉もふっくらジューシー!とっても柔らかく仕上がります。
まとめ
本日はジビエを生食で食べる危険性や安全に食べる方法をお伝えしました。お料理の幅も広くとっても美味しいジビエは世代を問わず愛されています。しかし、食中毒を防ぐためには食品衛生に関する知識は不可欠です。ジビエを食べる際にはしっかり加熱を行い、調理器具の衛生にも十分配慮するようにしましょう。