ジビエが高価になる理由とは?~知っておきたいジビエの裏側~

ここ数年のジビエブームにより、メニューの一つとしてジビエを取り入れる飲食店が増えたり、安心安全なジビエのみに認証される「国産ジビエ認証」といった制度も広く認知が進んだこともあって、多くの人に親しまれる身近な食材になりました。

その一方でジビエをお店で注文したり、肉屋で購入したりしたときに「ちょっと高いな…」と思った方も少なくないのではないでしょうか。今回の記事では、なぜお肉の中でもジビエは高価になるのか、その理由を解説していきます。

目次

ジビエ販売の現状

「家畜動物」と「野生動物」の違い

最も大きな理由として挙げられるのが、家畜動物と野生動物の違いです。

スーパーで販売されている牛や豚や鶏は、いわゆる「家畜動物」です。家畜動物は生まれてから出荷されるまで、畜産家が動物たちのお世話をし、健康な状態に育てられます。出生体重や食事、運動などを管理することで、出荷まで健康な状態を保つことができるのです。

このように飼育されている家畜のお肉は、スーパーで購入した精肉を食べた際、仮に食中毒のような食品事故が発生してしまった場合、出荷番号や製造番号を調べることで、出荷までの健康や生活状態を知ることができます。(これをトレーサビリティと呼びます)

事故の原因が店舗の販売管理の問題なのか、生育上の問題なのかをはっきりさせることができるのは、販売店の信用に大きく関わるため、トレーサビリティの確保がしっかりとされている家畜のお肉は、販売しやすいという背景があるのです。

では「野生動物」であるジビエはどうでしょうか。

野生動物は捕獲するまで、自然の中で生活をしています。何を食べていたのか、どんな群れと生活していたのか、妊娠したことがあるのかないのか…。ジビエは家畜動物のように生まれてから出荷するまでの生活状況をさかのぼって知ることはできません。そのためジビエのトレーサビリティは「捕獲してから出荷まで」の状況を詳細に記録することで、安全性を確保しているのです。

例えば捕獲時には、状況の記録として、止め刺し時の天候や止め刺しの箇所、血液の色や状態、体温など、他にも10項目以上の確認記録を取り、個体識別番号で管理をします。

また受け入れ(搬入時)の施設内の状況についても同様です。使用機材の点検の他、室温が適温になっているか、消毒液の濃度に問題はないか、など30項目以上のチェックを行い、徹底した衛生管理を行っています。

その後、内臓などを摘出し、厚生労働省の定めるカラーアトラスに沿って内臓やと体に異常が無いか一つ一つチェックし、問題の無い肉のみが出荷されるように選別していきます。

そうして商品として問題がないと判断された「と体」は、それぞれ適した商品(ブロック肉、スライス、ミンチ等)に加工され、商品ごとに製造番号を発行し、管理していきます。

このようにそれぞれの工程でチェックした内容は、すべて商品ラベルに記載されているQRコードで読み込めるようになっており、いつでも誰でもトレーサビリティが確認できるという仕組みになっているのです。

つまり国産ジビエの認証がなされたジビエは、こうした取り組みをきちんと行っている安心安全なジビエといえるでしょう。

安定供給が難しい

スーパーや百貨店のような食料店では、安定した供給量を必要とします。計画的に育てる家畜と違い、捕獲できた量しか供給することができないため、たくさん供給することができる日もあれば、全く供給できない日もあります。在庫管理や販売計画を立てるのが難しいため、小売店が仕入れることを躊躇ってしまうという状況があるのです。

ジビエの専門知識が必要となる

お店で食べる機会は増えましたが、家庭料理の食材としてはまだまだ普及しているとは言えません。調理方法や肉質、味などについての知識が無いと、食べ慣れていない消費者にはとてもハードルの高い食材となってしまいます。

わからないことが多い食材には質問も多く寄せられるため、ジビエに関してしっかりと説明できる販売員の育成は必要不可欠です。販売員にもそれなりの知識が求められる商品だからこそ、簡単に仕入れに踏み込めないといった現状にあります。

その点、ネット通販はジビエ加工施設が直接販売しているため、自社の通販サイトであれば(送料は多少かかりますが)販売手数料などを取られることがなく、売り上げがそのまま入るため、生産者にとっては販売しやすくなっています。また、調理方法や注意点なども細かく掲載しておくことで、初めてジビエを購入する人にとっても親切で、わからないことがあれば直接生産者とやり取りができるというメリットがあります。

またほとんどの加工施設では、ジビエは冷凍で発送されます。冷凍することで肉の鮮度が保たれ、すぐに食べない場合でも冷凍庫で保管しておけば食べたいときにいつでも新鮮なお肉を味わうことができるのです。

しかしながら、調理する食材は実際に見て購入したいという気持ちもわかります。そんなときは近くの道の駅などに足を運んでみてください。最近では特産品やお土産として取り扱うところも増えてきました。一度、のぞきに行ってみるもの良いかもしれません。

ジビエの価格相場は?

インターネットで「ジビエ 通販」と検索すると、検索結果は100万件以上に上ります。

販売単位や価格もそれぞれで、100gから購入できるところもあれば、1㎏からしか購入できないところもあります。価格の相場感としては、鹿ロース100gあたり800円~1,000円といったところが多い印象です。

では、その価格はどのように設定されているのでしょうか。

そもそもジビエは、牛や豚のようにわかりやすいランク付けや有名なブランド名があるわけではありません。そのため近年、農林水産省が主導して「国産ジビエ認証」という制度が設けられ、国の定めた厳しい衛生管理や作業ルールをクリアした加工施設の商品には国産ジビエ認証のシールが貼付されるようになり、安心安全なジビエであるかどうかが一目でわかるようになりました。

このシールが貼付されている商品を製造している加工施設は、衛生管理や作業工程にかなりの時間と労力を割いています。ジビエは高級品というイメージだけで価格設定をしている場合もあるため、ジビエを購入する際は商品写真や価格だけで判断するのではなく、製造元となるジビエ加工施設についても調べるようにすると安心でしょう。

消費者にとって、品質も価格も納得したうえで購入してもらえるようになることが、現在のジビエ業界に必要な取り組みだと言えます。

野生動物がジビエという食材になるまで

ジビエの販売を始めた当初、よく言われたのが「シカやイノシシの肉代はタダなのに、なんであんなに高く売るのか」という言葉です。

確かに世間ではシカやイノシシは有害動物として指定されるほど数が増えており、ニュースでも農作物や山林被害が後を絶たないとして報道されています。確かにジビエは野生動物のお肉であるため、家畜動物のように飼い主がいたり取引が行われたりすることはなく、そこには一切お金のやり取りは発生しません。

では、なぜ高価になるのでしょうか。答えは野生動物がジビエになるまでの工程にあります。

上記の図は家畜動物と野生鳥獣の処理手順を表したものです。次に野生鳥獣の処理手順について説明します。

罠を仕掛ける

ジビエを入手するには狩猟しか方法はありませんが、注文が入った後山に入ればすぐに獲れる!…というわけにはもちろんいきません。まず前もって山の下見をすることから始まります。狩猟可能なエリアにある山林を一山一山確認し、足跡などの痕跡を見つけ、その山の中に獲物がいるのかいないのか、また入っているのはシカなのかイノシシなのかの目星をつけます。

そうして見つけた獲物がいそうな山に罠を仕掛け、早朝に見回りに行くのです。一度にたくさん捕獲できるときもあれば、ひとつも捕獲できないときもあり、獲物が罠にかかるまで何日も要してしまうということも珍しくありません。

止め刺しをする

そうして仕掛けた罠に獲物がかかると、今度は加工施設に運搬するために止め刺しを行わなければいけません。止め刺しとは一言でいうと「とどめを刺す」ことです。

罠にかかった野生動物はほとんどがパニックを引き起こしているため、とても獰猛です。安易に近づいたり準備不足で作業に入ると、角や牙で突かれ大けがや最悪の場合命を落とすこともあり、まさに命がけの作業となります。

また、止め刺しと同時に行う血抜き作業は、ジビエの味を大きく左右するとても大切な工程となります。危険な状態で素早くかつ的確に止め刺しを行い、しっかりと血抜きを行わなければならないため、高度な技術はもちろん、止め刺しには様々な道具が必要になります。

処理施設まで運搬する

止め刺しをした後は時間との勝負となります。時間がかかればかかるほど肉の鮮度が落ちていくため、できるだけ早く運搬車に積み込まなければなりませんが、力の抜けた動物をできるだけ傷つけずに運搬車に乗せるのはかなりの労力を要します。中には100㎏近い大物が捕獲されることもあり、そうなると一人で作業することは難しくなります。

このようにジビエは捕獲するまでどんな状態の動物が罠にかかるかわかりません。「シカを捕獲するために仕掛けていた罠に狸がかかっていた」なんていうことも多々あります。家畜のようにメスとオスのバランスを調整したり、生育状態を指定したりすることは、基本的に難しいのがジビエです。

処理施設で洗浄、解体する

処理施設へ搬入した後は、動物の体についた泥や汚れをきれいに落とし、剝皮(はくひ)して内臓を取り出します。このとき初めて捕獲した動物の健康状態を調べるのですが、内臓を一つ一つ確認し、ひとつでもおかしいところがあれば、すべて廃棄しなければなりません。

これは「家畜のように生育過程を把握できない」というところに理由があります。おかしくなっている原因を突き止めることができなければ、安心して消費者に提供することはできません。厳しいガイドラインが制定されていることで、消費者の安全を確保しているのです。

【野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)はこちら】
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/GLhonbun_1.pdf

パッケージ、販売

安心安全が担保されたものは商品としてパッケージしていきます。家畜動物のように大量生産大量消費という性格ではないため、ライン生産ではなく、少人数でひとつひとつ手作業で行います。スライスやミンチなど商品ごとに適した肉を選別し、捨てるところが無いように工夫しながら生産していきます。特に本州のシカは牛や豚のように大きくなく、おなか周りにはほとんど肉はついていません。そのため歩留まりが低く、捕獲したときの重量に比べると実際に生産できる量は少なくなります。そのため、肉以外の内臓や骨、皮などを活用したペットフードなどの開発も積極的に行っていく必要があります。

また多くのジビエ商品は受注生産です。先に説明したようにスーパーなどの食料品店で常設されているところはごくわずか。道の駅などでお土産として購入される方も増えてきましたが、まだまだ一般食材として認知されていないため、販路開拓だけではなくジビエの認知度も上げるということも併せて行います。

このように、処理施設が担う仕事は想像を絶する業務量となっています。

この記事を読まれるまで、野生動物だから仕入にコストがかかっていないと思われていた方もいるかもしれません。ですが実際は、野生動物をジビエにするまでに覚えるべき内容や作業、さらには積まなければいけない経験が多く、そのための教育や訓練に多大な時間とコストを要しています。

また、捕獲できたとしても健康状態を確認するまではジビエとして使えるかどうかわからないといったリスクも孕んでいます。それもこれも、消費者のみなさんにジビエは安全で美味しい食材なんだと認知してもらうため。またジビエがしっかりと普及すれば、有害鳥獣による森林被害や農業被害は減少していくことでしょう。

今後ジビエを購入される際は、ぜひこの記事をヒントに選んでみて下さい。

きっと、美味しいジビエに巡り合えますよ!

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