猟師を助ける、有害鳥獣最終処理システムとは?

鹿肉のかきうち・京丹波自然工房では、シカやイノシシから商品となる「肉」や「骨」などの必要部分を取った後に残る「ジビエ残渣」の処理について、「有害鳥獣最終処理システム」という、微生物で有機物を分解する特別な装置を使用しています。今回の記事では、一般のほとんどの方には役に立ちませんが、ジビエ残渣で困っておられる処理施設の方に向けて、装置についてご紹介します。

目次

有害鳥獣最終処理システムとはどのような装置?

この装置は、投入した最大100kg(投入可能量は機械の大きさによって変わります)の野生動物を、24時間で完全に撹拌・分解します。有毒な灰などの廃棄物が出る焼却処分ではなく、酵素と微生物による働きを利用し、化学的に水とガスに分解して自然に還すことのできる処理装置となっています。

80度以上の温度で微生物を反応・活性化させることで、近年増加の一途を辿る有害鳥獣の「固い外皮や剛毛」を酸化分解させ、臭気などの発生を最小限に、有機物を極限まで分解することができます。

現在は関東・関西を中心に、大小さまざまな処理装置が9都道府県16箇所に導入されています。導入先からは「残渣処理の手間が減り、コストが下がった」と喜ぶ声を多く聞きますし、徐々に需要が拡大しているようです。

導入に至った経緯

私たちのようにジビエの処理施設を経営していると、「ジビエ残渣」という、肉や骨などの必要部分を取った後に残渣が出てきます。その始末をするためには、普通は「産業廃棄物」として処理しなければなりません。(中には一般廃棄物扱いにしている都道府県もあります。)

産業廃棄物は処理する費用が非常に高く、そのコストは直接お肉の単価に跳ね返ってきます。処理施設から残渣を一歩外に出すと廃棄物扱いになってしまうので、処理施設の中で残渣まで処理してしまいたいと考えていました。

処理施設経営者としては、ジビエ残渣をどう処理するかを計算して、経営計画を立てていかなければならず、なんとか施設内で処理できる方法はないかと模索していました。

そんなとき、芹澤微生物研究所の有害鳥獣最終処理システムに出会いました。残渣処理に困っていることを池田泉州銀行の担当者に相談したところ、このような会社があると紹介していただいたことがきかっけです。

ある日、岡山県の和気町にその装置が入っていると聞き、視察に行きました。そこではジビエ残渣の処理に装置を使っていたのではなく、野生動物を肉として活用せずに直接機械の中に死体を放り込んでいるのを目の当たりにしました。重量でいうと残渣の4~5倍もある動物の死体が、この機械に入ると、24時間で分解されてしまうというところに衝撃を受けました。

導入のきっかけとなったもう一つの問題点

導入のきっかけはもう一つあります。有害鳥獣駆除で捕獲した野生鳥獣の後始末をどうするのか、今後どんどん問題になってくるだろうと感じていたことです。

ほとんどの地域では、有害鳥獣駆除で獲った動物は山中に埋設処理しています。野生鳥獣の死骸というのは、一般廃棄物扱いをして良いとされており、山に埋めても良いのです。しかし、山に埋めるにしても体積がとても大きいので、穴を掘って投げ入れたあと上から土を被せても臭いがするし、カラスが飛んできたりクマの餌になってしまいます。

穴を掘った場所に水が溜まり、汚染された死骸

クマはこれまで、シカを食べるということはほとんど無かったのですが、山中に猟師が獲ったシカを放置することで味を覚えてしまったことが、クマが里山に降りてきた原因の一つとも言われています。

どこの市町村も有害鳥獣駆除では「埋設をしましょう」と推奨していますが、一人の猟師が何十頭も獲ったら、穴を掘ってもすぐにいっぱいになってしまうし、夏場の暑い日に大きな穴を掘って埋めるということも、高齢化の進む猟師には負担が大きいです。猟師が少なくなっている中で、実際埋設はしっかりと行われておらず、山中に埋めたような形にして放置されていることが多いのが現状です。

カラスやクマの問題だけではなく、最近は豚熱(旧称:豚コレラ)の問題もあります。豚熱は、山中でイノシシがイノシシに移し合っていると思われがちですが、なぜこれだけ豚熱が一気に蔓延したのでしょうか。私の視点からは、

  1. 豚熱に侵されたイノシシが捕獲され、山中に放置される
  2. それをイノシシや小動物が食べる
  3. 食べた動物が違う山へ移動する
  4. 養豚場の近くへ伝染する
  5. ネズミなどを媒介して養豚場内の豚に伝染する。

というようなルートがあったのではないかと予想されます。

こういった問題を今後発生させないためにも、有害鳥獣の山中放置は防がなければならないのです。

埋設の代替手段には何があるか。

埋設はとても大切なことなのですが、かなりの労力が必要なため、代替手段を検討しなければなりません。

他に埋設のデメリットとして、近くの川などで水質検査をすると、やはり動物の死骸に汚染されているという結果が出るようです。これは環境破壊にもつながってしまいます。市町村としても、何千頭という野生動物を埋設だけで処理することは不可能に近いと考えています。

どのような方法があるか調べたことがあるのですが、例えば北海道ではシカの残渣を牛糞に混ぜて堆肥化させるなどの方法が何年も前から行われていたようです。しかし、北海道のような広大な大地で行われていることは、本州のどこでも真似できるわけではありません。

他にも埋設しないという方向性はいくつかありますが、その一つの解として、有害鳥獣最終処理システムがあると考えています。分解の際に85度以上の熱が加わるため、豚熱の感染も止まると聞いています。これからは山中に埋設するのではなく、こういった機械で処理をすることが一般的になっていくと思います。

私たちは「集積場スタイル」と呼んでいますが、有害鳥獣駆除で獲れた動物の利活用として、肉、骨、皮などに分けた後に残渣も処理施設の中で処理をする。このようにすべてを一定の場所に集めることで、猟師の作業負担を大幅に軽減させ、かつ環境にも配慮されているため、近年建設された処理施設ではこのスタイルを導入しているところが増えてきています。

集積場スタイルにどのようなメリットがあるのかを紹介します。

  • 埋設しなくて済むので、猟師さんの負担が軽減される。
  • 埋設しなくて済むので、土壌や地下水などの環境汚染の防止につながる。
  • 各エリアで、いつ、どれだけ、誰が、有害鳥獣駆除を実施しているのかを把握し、データ化できる。
  • そのデータを使って、市町村が精度の高い「捕獲・保護計画」を作成することができる
  • 搬入された動物をよく観察して、無駄なく利活用することができる。
  • 個人が不正申請する報奨金の受給を防ぐことができる。
  • 集まってきた猟師に、食肉として利用できるような捕獲方法を指導することができる。
  • 分解されたイノシシは肥料にし、循環型農業が行える。

このようにたくさんのメリットが挙げられます。

逆にデメリットとしては、

  • 機械の管理をしていかなければならない。
  • 分解装置というのは、研究開発が始まったばかりの取り組み。今後どのような問題が出てくるかが未知。
  • 微生物は生きているので、全滅させないような環境づくりが必要。
  • 少々臭いがするので、ご近所の理解を得なければならない。
  • シカは肥料にすることができない。(草食動物は狂牛病ウイルスを撒き散らさない可能性がゼロではない)

など、デメリットも多く存在します。

微生物処理以外の代替手段にはどういうものがあるの?

微生物処理以外にも、埋設の代替手段は多く存在します。ここではメジャーな2つの方法をご紹介します。

こちらの内容は、下記のリンク先にある「有害鳥獣の捕獲後の適正処理に関するガイドブック」から抜粋しています。他のページも読み応えがありますので、ぜひご覧ください。
https://www-cycle.nies.go.jp/jp/report/choju.html

野積み式

野積み式は、北海道枝幸町における「エゾシカなど有害鳥獣の枝幸式発酵減量法」を参考として行われている方法で、焼却炉に投入する際に容易に切断できる段階までを対象としているため、「軟化処理」としています。2週間で半分程度に減量され、安全に処理できる方法だとされています。臭気は、攪拌作業時の施設内では人間が感知できる程度が検出されましたが、施設外及び静置状態ではほとんど感じられなかったそうです。

有害鳥獣の捕獲後の適正処理に関するガイドブックより

専用焼却炉による焼却処理

捕獲個体の専用焼却炉を設置し、捕獲個体あるいは食肉加工残渣を焼却処理する方法です。

1日あたりの捕獲数は一定でなく、搬入量が処理能力を超えることも想定されるため、冷蔵または冷凍保管庫の併設が必要です。既存の焼却施設に受け入れができない場合や、生物処理施設の立地場所が無い場合に有効であるが、専用焼却炉を設置するにあたり、導入費及び維持管理費等が高額になります。また他と同様に、捕獲個体の切断は不要となります。

有害鳥獣の捕獲後の適正処理に関するガイドブックより

下記の表では、国環研推進費及び長崎県推進費によって各処理方法の導入コスト及び処理コスト(維持管理コスト)が整理されています。導入コストとは施設の建設や設備導入にかかる経費を指し、規模により大きく異なるため、規模と金額の一例を参考として示されています。一方、処理コストは捕獲現場からの搬出・運搬にかかる費用から処理施設での人件費や維持管理にかかる光熱費、処理産物の一般廃棄物処理費などを指し、捕獲個体1kg あたりの金額として示されています。
※詳しくはガイドブックをご確認ください。

処理方法処理コスト内訳
化製処理を行い、資源化(イノシシのみ)169.7円/kg搬出、運搬費:38.0円/kg
一時保管庫運営費:17.3/kg
回収、化製処理費:130.0円/kg
破砕機で切断し、焼却86.2+a円/kg搬出、運搬費:65.2円/kg
作業人件費(受入、切断):不明(+α)
光熱費(冷凍庫、裁断機):不明(+α)
一廃処理費(中間処理、最終処分):21.0円/kg
生物処理し、焼却または埋立(野積み式)155.3+a円/kg搬出、運搬費:65.2円/kg
作業人件費(受入、撹拌):69.1円/kg
燃料費(重機):不明(+α)
一廃処理費(中間処理、最終処分):21.0円/kg
生物処理し、焼却または埋立(装置式)200.2+a円/kg搬出、運搬費:65.2円/kg
作業人件費、光熱費:114.0円/kg
菌床購入費、メンテナンス費:不明(+α)
一廃処理費(中間処理、最終処分):21.0円/kg
動物専用焼却炉で燃焼786.2円/kg搬出、運搬費:65.2円/kg
作業人件費、光熱費、燃料費:700円/kg
菌床購入費、メンテナンス費:不明(+α)
一廃処理費(中間処理、最終処分):21.0円/kg
一廃(産廃)処理業者に委託50.0円〜250.0円/kg処理委託費:50.0〜250.0円/kg
現場埋設22.5円/kg作業人件費:22.5円/kg

これらのように、他にも埋設の代替手段はたくさんあります。トータルでかかる金額を見ると、現場埋設が一番お得なように見えますが、これまでに説明してきたとおり、猟師の高齢化問題や山の環境問題など、気をつけて選択したいところです。

おわりに

いかがでしたか。ジビエを取り巻く環境は刻一刻と変化しています。これまでの常識であったことが翌年には大きく変わっているなんてことも少なくありません。そういった中で、今最も最適な解決方法はなにかを常に考えていく必要があります。

今後、「質の高いジビエ」と呼ばれるものは、安心安全でおいしいだけでなく製造過程において、いかに環境に配慮し、「持続可能であるか」も大きく加わってくるでしょう。一人の力では及ぼす影響が少ないかもしれませんが、多くの施設が取り組むことで、日本のジビエは大きく飛躍していくことと考えています。

機械の見学や相談はこちら

「有害鳥獣最終処理システム」の見学や相談、「残渣減容化」に関する相談は下記へご連絡下さい。有料にはなりますが、導入や運営についてのノウハウについてお話させていただきます。

農水省ジビエコーディネーター 垣内 規誠
電話:0771-82-0802
FAX:0771-82-3024
メール:info@artcube.in

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