食べるだけじゃない、猟師が教える狩猟の魅力。

アウトドアの流行にジビエの普及、里山を守るための有害鳥獣駆除など、猟師が狩猟をする理由は多様化してきています。とはいえ、狩猟の目的は共通して「山に分け入って獲物を狩る」ことでしょう。この目的に向かう道すがら、猟師たちは狩猟の魅力に出会っているわけです。今回は、猟師の目線から「狩猟の魅力」について触れていきます。

目次

獲物を追って仕留める楽しさ

狩猟と一口に言っても「巻き狩り(グループ猟)」、「忍び猟(単独猟)」、「流し猟」、「わな猟」、「カモ猟」、「あみ猟(鳥猟)」など猟法は複数あります。しかし、どの猟法でも獲物を追う(あるいは待ち伏せる)ことに変わりなく、追って仕留める楽しみは共通しています。

とくに歩く距離が長い「巻き狩り」や「忍び猟」、「わな猟」は、距離に比例して追跡する時間も増えますので、獲物のことを考える時間も長くなります。

野生動物の痕跡を追うトラッキング

猟場で“けもの道”と呼ばれる野生動物が通った跡を見つけたのなら、蹴爪の残り方でどちらの方向に行ったのかを見定めたり、足跡から動物の見当を付けたりします。達人になれば、足跡の深さで体重まで特定することも珍しくなく、いつ付いた足跡なのかさえ分かる人もいます。

足跡から動物の見当をつける
糞も動物を特定する手掛かりに。

トラッキングの精度を高めたことが猟果にも反映されれば、狩猟の楽しみも倍になることでしょう。

チームワークで獲物を仕留める

複数人で猟をする「巻き狩り(グループ猟)」では、獲物を追い立てる「勢子(せこ)」と追い立てられた獲物を仕留める「マチ(タツマ)」、そして当日の進行予定や人員配置、安全な巻き狩りを行うための注意や連絡などを中心になって行う「リーダー(隊長)」で構成されます。

勢子は、グループの中で最も体力のいる役割で、猟犬と共に山に入り待機しているマチの所に獲物が出てくるように、けもの道や見通しのつかない茂み(ブッシュ)に分け入り、体を張って獲物を追い立てます。

また、勢子と待場で待っているマチとの間を獲物に突破されないように適切な距離感と緊張感を保ちながら横隊することも重要です。勢子は“猟犬と共に獲物を追い立てる人”と思われがちですが、獲物を見つけ、なおかつ逃がさないというのは案外難しいものです。勢子の活躍次第で当日の猟果が決まるといっても大げさではありません。

獲物を追い立てたら、あとはマチに任せるのみですが、マチとの位置関係には十分な注意が必要です。マチが獲物を仕留めることに集中できるように、できることは勢子が配慮してあげます。獲物が現れたら必ず仕留めなければいけないのがマチです。プレッシャーも相当なものですが、勢子の的確なサポートと射撃訓練を積んでおくことで、余計な重荷を負わずに役割を努められるでしょう。

豊富な猟果はチームワークの証。チームの一体感を味わいながら、獲物を仕留めることにはとても面白みがあります。

環境に溶け込んで単独プレーで獲物を仕留める

単独で猟をする「忍び猟(単独猟)」は一人で獲物を仕留めるスタイルです。息をひそめ、気配を消して獲物との距離をつめる方法や、あらかじめ“けもの道”で待ち伏せして仕留める方法など、猟師によって猟のスタイルはさまざま。

しかし一人での猟は難しいものです。獲物の生態や猟場の地形、当日の天候などを総合的に判断して、一人で作戦を立てなければなりません。基本的に誰のサポートも受けられないため、同じ場所に長い時間待機したり、山中を歩き回ったりしても猟果はおろか、獲物と一回も出会えなかったなんてことも起こるでしょう。

そんな苦労があるからこそ、獲物が目の前に現れたときの高揚感や無事に仕留めたときの達成感は感動ものです。忍び猟が好きな猟師は、「自分なりに試行錯誤しながら経験値を積めるのが楽しい」と言う方も多いです。

とはいえ、周囲に民家や人影はないか、着弾先に安土(バックストップ)はあるかなど安全への配慮も自分一人で行わなければならないので、猟師になりたての方にはハードルが高い猟法といえるでしょう。

狩猟犬と狩りをする楽しさ

前述したように、人間同士のチームワークで獲物を仕留める楽しさは素晴らしいものです。また、愛犬(猟犬)と協力する猟にもかけがえのない喜びがあります。

猟犬の役割は、猟師に獲物の居場所を教えたり、または獲物を猟師の前まで追い出してくれたりと、猟の要の部分を担います。猟師の右腕(パートナー)といっても過言ではありません。

たとえ自分の犬を飼っていなくとも、獲物を追い出すために仲間の猟師が飼っている猟犬が発する「ヴォウ オウ!」という吠え声や全身から溢れる猟欲を感じると、人間側も「さぁやるぞ!」と闘志が沸き起こるものです。

狩猟犬となる犬の出歴は、地域で長く受け継がれてきた地犬や、愛玩用の家庭犬出身であったり、猟犬訓練施設や猟犬のブリーダーに育てられたりとさまざまですが、実猟で使役するためには、日頃から愛情を注ぎ、実猟に必要な猟芸を根気強く教え込む時間が必要です。手間暇をかけるからこそ、実猟でのコンビネーションがうまくいったときの喜びもひとしおです。

育てる楽しさ

獲物の種類や狩猟方法によって、向いている犬種も教え込む猟芸の内容も変わると言われているほど、猟犬の育成には奥深いものがあります。

一概にはいえませんが、立ち耳の犬は聴覚、伏せ耳の犬は嗅覚に優れているとされ、手足が長い犬は長距離の追跡に、短い犬は獲物を咬み止めるのが得意といったように犬によって生まれ持った性質のようなものがあります。自身の狩猟スタイルに合わせた犬(種)を育てるのも戦略的で面白いでしょう。

また、訓練の一環として猟場を散歩させて地形に慣れさせたり、獲物の臭いを覚えさせるために食事に獣肉を取り入れたりと日常生活から気を使う部分はたくさんあります。猟芸を教える場合にしても、専門家から指導を受ける必要があることも。

一方で試行錯誤しながら育成に励む猟師も少なくありません。たとえ体系的な知識がなくても、愛情を注ぎ、飼育環境を整備して、根気強く猟芸を教えていく(仕込む)うちに、だんだんできることが増えていくはずです。成長過程を見守りながら、実猟で応えてくれる日を夢見る時間も楽しいでしょう。

出猟時の楽しさ

日頃から狩猟犬との信頼関係を築き、訓練を積んだら、いよいよ出猟です。あとは猟場で役目を果たせるかどうかですが、最初のうちは思うように動いてくれなかったり、使役するのも一苦労なんてこともあるでしょう。

しかし、少しばかり手を焼いたとしても、一緒に実践経験を積み重ねる時間がなによりの楽しみになっていることも。そしてついに獲物を仕留められたとき、愛犬の誇らしげな顔にきっと、充実感を覚えるはずです。「自分の役目を果たしたぞ!」といわんばかりに満足そうな表情で戻ってきたら、こちらも嬉しくなります。

ときには、野生動物との格闘で負傷して猟欲が損なわれたり、誤って毒エサを食べるなどして、命の危険にさらされることがあるかもしれません。それでも一緒に危機を乗り越え、パートナーとして猟果を得ることは、何事にもかえがたい喜びです。

猟果が0匹でもがっかりしない?山は出会いの宝庫

猟師は山に入ると五感を研ぎ澄まし、目・鼻・手・耳・口で敏感に季節を感じ取ります。1時間、2時間と山の中でじっとしていると、自分の体が自然と一体化していく感覚をおぼえます。自然と溶け込むと目と鼻の先に野鳥が飛んできたり、気配を消し過ぎて真後ろを獣が通っていくなんてことも。

静かに山の中に佇んでいると、普段は気にも留めない風の通り抜ける音や草木の香り、深い緑の色彩に心も体も癒されていきます。

リスやサル、フクロウなど野生動物との出会い

狩猟をする場所は、一部の例外を除いて自然が豊かな場所です。とくに山中を移動する猟では、野生動物との出会いも豊富。立ち止まったときにふと、木々の間に動く影を目で追ったら、リスやサルだったということもあるでしょう。

普段お目にかかれない野生動物に出会えるのはうれしいものです。中には、もう二度と出会うことはないであろうと思えるほどの奇跡的な出会いもあり、一期一会を感じることもあります。

獣害対策網にひっかかったフクロウ。撮影後、網からはずすと、森の方向へ飛んでいきました。

上記の写真は、獣害対策網に誤って引っ掛かってしまったフクロウです。わなを車で巡回していたときのこと、不自然な網の揺れ方を見つけ、車を降りて近づいてみたら、なんとフクロウが網にかかっていたのでした。フクロウは、鳥獣保護管理法で保護されている非狩猟鳥獣。捕獲、飼育は法律で禁止されていますので、猟師にとっては滅多に見られない野生鳥獣です。フクロウにしてみれば災難だったでしょうが、そんな偶然の出会いも狩猟の魅力といえるでしょう。

心を豊かにして癒しをもたらす四季折々の景色

毎日のように猟場に出向いていると当たり前になりすぎて見落としてしまうことかもしれませんが、自然が魅せる四季折々の景色は心を豊かにして癒しをもたらします。

猟期が始まる秋頃には、山を赤や黄色に染め上げる紅葉や金色のススキが見頃。疲れて立ち止まったときに目に入ると元気をもらえたりします。

冬になれば、雪が降る地域では一面の銀世界に変わります。雪深い場所をかんじき(スノーシュー)でラッセルをするのも冬ならでは。木への着雪に太陽の光が当たるとキラキラときれいです。そして雪解けの頃には土の中で栄養を蓄えてきた野草が一気に芽吹きます。都会で生活していると、景色から季節の移り変わりを感じとるのは難しいもの。山に入るだけで、たとえ猟果が0匹でも、このように自然を楽しみ、山の恵みを味わう贅沢な体験ができます。

運動不足解消としての狩猟

猟法や猟場の違いによって運動量も変わってきますが、どれも共通していえそうなのが「歩く」動作は必要不可欠であるということ。徒歩以外の車などの手段で移動する「流し猟」であっても、車から降りて発砲し、獲物を仕留めた後は車まで帰りますので、獲物を探した距離によっては、かなり歩くこともあります。

事前にわなを仕掛けておく「わな猟」も同じで、車で見回るにしても、獲物がかかっているかどうか見に行く作業が必要です。また、捕獲した獲物をナイフで「止め刺し」する場合は、相手は命がけですから激しく暴れる場合もあります。間合いを見定め止めるには慣れないうちはとくに体力を使うでしょう。

一方で徒歩で獲物を探す「巻き狩り(グループ猟)」、「忍び猟(単独猟)」などについては、山道を登り下りする動作にくわえ、獲物が隠れていそうな茂みがあれば中腰でかがんだり、しゃがんだり、状況によってはほふく前進をすることも。

狩猟を楽しむうちに、全身運動もできて健康になっていた…なんてことはよくあり、ダイエットになったという話も。これもまた、狩猟の隠れた魅力といっても良いかもしれません。

最後に

今回の記事では、猟師の目線から狩猟の魅力をご紹介しました。試行錯誤を積み重ねながら手に入れた獲物だからこそ、ジビエ料理にしたときのおいしさは格別です。

また、猟師になったけれどさばき方がわからない、知り合いに猟師がいないといった方には書籍「ジビエハンターガイドブック」をおススメしています。自家消費に特化した内容となっていますが、ジビエハンターのいろはが盛り込まれた専門書となっていますので、ぜひこの機会にチェックしてみてはいかがでしょうか。

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